最近ではすっかり市民権を得た「クラフトビール」。
ペールエールやIPAなど様々なタイプのビールがビアバーやコンビニでも飲めるようになりました。
このコラムではビール醸造家としての立場からビールについての様々なお話をお伝えしています。
今回は、ビールに欠かせない原料であるホップのお話です。
ビール造りに欠かせないホップとは?
ホップは、別名「ビールの華」とも呼ばれています。
古代エジプトからハーブとして知られており、ヨーロッパでも8世紀以降には複数の修道院に付属のホップ園がありました。ビールのためにホップが使用されていた記録は、12世紀以降に現れてきますが、主流となったのは15世紀以降と考えられています。14~15世紀のハンブルクではビールの輸出が盛んに行われています。この時ホップの優れた腐敗防止効果が確認され、次第にホップの使用が浸透していきました。
中世以前にはホップ以外の薬草や香草も使われていましたが、ビールの品質を高めるにはホップが最も適していることが次第に広まり、16世紀にはその地位を確立しています。
ホップは、アサ科カラハナソウ(唐花草)属の蔓性の多年生植物で、ビール醸造では雌花の未授精の処女花を使います。
5月の初め頃に萌芽し、収穫時期の8月~9月には蔓の高さは7mほどの高さまで成長します。
ホップを使うと、その「樹脂」成分、ホップの苦味成分であるアルファ酸が麦汁煮沸工程で熱変化したイソアルファ酸によって、ビールに特有の苦味が付与されるとともに、「樹油(エッセンシャルオイル)」によって爽やかなホップ独特の香気が醸し出されます。
イソアルファ酸は、麦芽由来のタンパク質とともにビールの泡の形成や泡持ちに大きな役割を果たすほか、殺菌作用もありビール醸造工程でビール酵母以外の雑菌の繁殖を抑制します。また、ホップに含まれるポリフェノールには、大麦タンパク質と結合しビールを清澄化させる効果もあります。クリアーで透明度の高いビールを醸造するには、ホップはなくてはならない存在なのです。
ビール醸造時のホップの役割
ビールを造るうえでのホップの役割は、
- 苦味付け
- 香り付け
この2つがメインです。
これはおいしさに直結する最大要因。
ビールにおけるホップの役割は非常に大きく、それだけにホップの種類の違いや量の違いが、味の違いとして現れてきます。
ビールの苦味付け
ほかのお酒では見られない、ビールならではの味覚「苦味」。
これはホップに含まれるアルファ酸という化合物を煮沸することで発生します。
ホップの種類によって含まれるアルファ酸の割合は異なっており、ピルスナーなどでよく使われるザーツというホップでは約4%、アメリカ産のチヌックというホップでは約12%など品種によってかなり開きがあります。アルファ酸の割合が高ければ苦味が付きやすいホップであるということです。
どのホップがどれくらいのアルファ酸を含んでいるのかは、ホップ毎に情報が出されるのでそれを参考にします。収穫年によってもアルファ酸の量は増減するため、同じレシピでも年によってホップ量を変化させたりする必要もあります。
また、苦味は前述のとおり煮沸して初めて発生します。したがって、製造工程で麦汁を煮沸する最初にホップを投入し長い時間煮沸するのと、最後の5分間に投入するのとでは苦味の付き方が変わってきます。長く煮沸すればするほど苦味は強くなります。
ビールのレシピを作る際には、狙った苦味になるようホップの種類、量、投入のタイミングを計算しているのです。
ビールの香り付け
続いて、香りについて。
これはホップに含まれる香油によってもたらされます。
主に「ミルセン」「フムレン」という成分がその役割をし、この2つの成分の割合によってさまざまな特徴ある香りとなります。
簡単に言えば、『ミルセンが多ければ柑橘系の香り』『フムレンが多ければハーブや花のような香り』。
よくアメリカンスタイルのIPAで柑橘の香りを感じると思いますが、これはミルセンが多く含まれるホップを使っているからです。
逆にフムレンの多いホップは、ドイツやチェコのピルスナーなどでよく使われています。
このように、国によってどのタイプのホップが多く使われるかは異なっており、栽培されるホップもアメリカではミルセン系、ヨーロッパではフムレン系と別れています。
ただし、近年世界的にアメリカンスタイルのビールが流行していることから、ヨーロッパでもミルセンの多い柑橘系の香りのホップが栽培されつつあります。
ホップのジレンマ?
製造工程においてホップは苦味付けのため煮沸中にビールに投入されますが、香り成分である香油は煮沸すると揮発してビールに残らなくなってしまいます。
『苦味をつけるために早めに投入したいけど、そうすると香りがなくなってしまう』
というジレンマを解消するため、今日では一般的に香り付け、苦味付けをそれぞれ分けてホップを使っています。
つまり、まず苦味付けのためのホップを煮沸初期段階で投入、煮沸終了間近に香り付けのホップを投入するというやり方です。こうすることで苦味と香りが両立したビールを造りだすことができるのです。
ビールにおけるホップの使い方まとめ
我々醸造家はこのようなホップの特性を理解し、組み合わせることで様々なビールを造っています。
今回の話をまとめると、ホップは苦味と香りの最重要ファクターで、それぞれ異なる成分によってもたらされていて、そのバランスをとるのが結構大変ってことです。(笑)
今回はホップの使い方についてのお話でした。
ホップの特徴を知っておけば、「○○ホップを使用!!」といったホップにフォーカスしたビールを見かけた時、これは柑橘系の香りだな、これは苦味が強そうだなといった想像が出来ると思います。
ぜひ、どのようなホップを使ったビールがご自身の好みに合っているのか探してみてください。
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