クラフトビールのさまざまな情報を提供している「醸造家が教えるビール講座」も今回で第5回。
前回、前々回に続き、「モルト」の深い世界をご案内いたしましょう。
モルトは麦芽のことで、ビールの材料のひとつですが、一般的にはウィスキーの原料という印象が強いのではないでしょうか。ビールの風味を特徴づける重要な材料ですが、苦味という大きな特徴のあるホップに比べて忘れられがちな存在です。しかし、ビールの風味を表現するには、モルトの存在は欠かせません。
まず最初に、モルトの産地から。モルトは育った土壌や気候によって、質が変わってきます。結果、モルトの産地によってビールの仕上がりが大きく変わるのです。ここでは産地ごとの違いを簡単に説明しましょう。
ドイツ
※写真はイメージです
ビール大国ドイツ。大昔からビールを飲み続けてきたドイツでは非常に多くのモルトが作られています。
日本のビールもドイツから技術提供を受けたブルワリーが多いため、ドイツ産のモルトが多く使われています。
ドイツのモルトの特徴は、味のバランスがよく、タンパク質が多いこと。タンパク質が多いとアルコールのもととなる糖化効率が悪くなるので、ドイツ産モルトを使う場合にはデコクション法という仕込み方法でタンパク質を分解してから糖化を促します。デコクション法で仕込んだビールは、まろやかな味わいになります。
イギリス
イギリスも大モルト生産国で、有名な高級エールモルト「マリスオッター」もイギリス産です。イギリス産のものはドイツに比べタンパク質量が少ないので、そこまで糖化効率を考えなくても十分に糖化ができます。
アメリカ・カナダ
※写真はイメージです
アメリカやカナダのモルトは、デンプンの親水性が高く、アメリカのクラフトビールはシングルインフュージョンという方法で糖化を行うことが多いです。この方法は麦芽の質が向上した近年、多くのブルワリーで採用されている糖化方法です。
日本
※写真はイメージです
自給率は7~8%ですが、日本でもビール用大麦の栽培は行われており、北海道や東北、北関東、九州北部などが主な産地です。デンプンが多いのが特徴で、クラフトビールメーカーによっては、すべての原料を地元産でそろえる場合もあります。
大手ではサントリーが国産麦芽の販売を行っているほか、サッポロビールの北海道の契約農家栽培の麦を使ったビールや、キリンの一番絞りの都道府県シリーズの中に、地元産モルトを一部使用したビールなどがあります。
ホップと並び、ビールの風味に非常に大きな影響を与えるモルト。その由来を知り、味わいを楽しみながら飲むことで、より深くビールを楽しめるのではないでしょうか。お気に入りのビールを飲みながらモルトについて考えてみてください!
ほかのお酒は飲まなくてよいというほどのビール好き。
クラフトビールについて日々勉強中です!