はじめに
「クラフトビールって、本当に流行ってるの?」「2026年の酒税法改正で何が変わるの?」
そんな疑問を、業界データで整理します。市場規模、ブルワリー数、税制改正、最新トレンド。そして見落とされがちな「成長の裏側」まで、クラフトビール市場2026年の現在地を読み解いていきます。
数字の見出しだけでは見えない、現場の景色も合わせてお届けします。
クラフトビール市場2026の規模感|約360億円から1,000億円へ

クラフトビール市場は、ここ数年で大きく動きました。
日本クラフトビール業界団体連絡協議会の調査によると、2022年度の国内出荷量は約4.4万キロリットル、売上金額は約360.6億円。コロナ禍前の2019年度と比べて、出荷量は約24%増えています。
直近の動向は少し冷めています。東京商工リサーチが調べた主要45社の2025年1〜8月の出荷量は約7,428キロリットル、前年同期比+0.5%。数字上は2年ぶりにプラス成長ですが、内訳を見ると45社中31社が前年割れ。トップ数社が全体を押し上げた結果で、業界全体としては調整局面が続いています。
それでも将来予測は強気です。海外調査機関は、日本のクラフトビール市場が2024年の3.5億ドルから2035年には13億ドルに達すると見込んでいます(年平均成長率約12.67%)。国内の業界関係者からは「2026年に1,000億円市場が視野に入る」という声も上がります。
ビール市場全体に占めるシェアは0.95%(2022年)と、まだ小さな数字。それでも10年前と比べれば、確実に存在感を増しました。
ブルワリー数は10年で約3倍|なぜここまで増えたのか
クラフトビール市場の拡大を象徴するのが、ブルワリー(醸造所)数の急増です。業界調査によると2025年3月時点で約891社、2019年度の約422社から大幅に伸びました。
| 年 | ブルワリー数 |
|---|---|
| 2019年度 | 約422社 |
| 2020年度末 | 約434社 |
| 2022年度 | 約655社 |
| 2024年 | 800社以上 |
| 2025年3月 | 約891社 |
5年で約2倍、10年では約3倍。短期間でここまで増えた業界はそう多くありません。
ただし、この数字は「製造免許を持っている事業者数」であり、実稼働しているとは限りません。免許を維持しつつOEM委託で凌ぐブルワリー、ほぼ稼働していない免許場も含まれます。「891社が全力で動いている」と読むのは早計です。
急増の背景には、いくつかの制度的な追い風がありました。
- 2018年の酒税法改正:ビールの定義が変更され、麦芽比率が67%→50%に引き下げ。果実・香辛料・ハーブなどの副原料が「ビール」として認められるようになった
- 小規模醸造への門戸:もともと発泡酒免許の年間最低製造数量は6キロリットル(350ml缶換算で約17,000本)。週末営業のブルーパブ(醸造所併設のパブ)でも現実的な水準で、副業的な参入も後押し
- 地方創生×観光資源化:地域の食文化と結びついた「ご当地クラフト」が観光資源として注目される
- 消費者の理解の深化:味・ストーリーで選ぶ文化が、ゆっくりと根付いてきた
副原料の自由化はクラフトの個性表現を一気に広げました。ただしこれは小規模ブルワリーの参入要件を緩めた制度ではなく、定義の柔軟化です。誤解されがちな点なので念のため。
成長の裏側|廃業・原材料高騰・後継者問題
ここで現場の声にも触れておきます。
ブルワリー数891社という数字には、2024〜2025年に表面化してきた廃業・事業譲渡の事例が含まれます。コロナ禍のゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の返済本格化に加え、2000年前後の地ビールブーム第一世代の経営者高齢化、後継者不足が重なります。
原材料コストも逆風です。
- 輸入麦芽:ドイツ・北米産は2022年以降30〜50%値上がり
- ホップ:特にアロマホップは価格高止まりが続く
- アルミ缶・電気代・物流費:いずれも高止まり
仕込み・冷却・温調すべてに電気を使う醸造現場では、電気代高騰の影響が直撃します。原価率が悪化しているのに、小売価格に転嫁しきれないブルワリーが多いのが実情です。
加えて、ブルワー(醸造担当者)の人材不足も深刻化しています。日本にはブルワー専門学校が少なく、技術継承は海外研修や独学に頼る場面が多い。賃金水準もまだ高くなく、優秀な人材の確保が難しい構造です。
891社という数字の裏で、「淘汰フェーズ」も同時に進行しています。
2026年10月の酒税法改正がクラフトビールに与える影響
クラフトビール業界にとってもう一つの大きな転換点が、2026年10月の酒税法改正です。
何が変わるのか
ビール系飲料(ビール・発泡酒・第三のビール)の税率が、1キロリットルあたり155,000円に統一されます。350ml換算で54.25円。これまでビールに課されていた63.35円から約9円下がります。
大手メーカーの350ml缶ビールは、220円前後から200円前後への値下げが見込まれます。
サントリー「金麦」やキリン「本麒麟」など、これまで第三のビールだった商品が「ビール」へ品目を格上げして発売される動きも進んでいます。第三のビールの価格優位性が消えるため、大手はビール本体への投資をシフトしているのです。
クラフトビールへの影響は「光と影」
業界では「クラフトに追い風」という単純な見方は少数派です。光と影の両面があります。
光:価値で選ばれる文化の追い風
これまで「クラフトは大手より高い」が当たり前でした。大手の値下げで価格差の相対的な縮小は限定的でも、消費者が「値段の差は何のため?」と考える機会が増えます。味・品質・ストーリーで選ばれる文化は、長い目で見れば追い風です。
影:大手の価格競争力強化
一方、大手ビールが200円前後で並ぶ環境では、350ml缶500〜700円帯のクラフトとの差は依然として大きいまま。9円/350mlの減税はクラフトの小売価格にはほぼ反映されません。「安さで勝負しない」路線が、より強制される構図になります。
棚の取り合い
第三のビール撤退で空く小売店の棚を、誰が取るか。可能性として高いのは、大手の新ジャンル代替商品(プレモル系・ザ・モルツ系の派生)です。クラフトの棚拡大は、銘柄ごとのブランド力次第になります。
2026年の注目トレンド|ノンアル・和素材・ベース品質

数字だけではなく、味わいの面でも2026年は新しい潮流が続きます。ただしこちらも「明るい話だけ」では終わりません。
ノンアル・低アルコールクラフトの台頭
IWSR調査によると、世界主要10市場のノンアル/低アル飲料市場は2023年に130億ドルを超え、2027年までの年平均成長率は約6%。「ソバーキュリアス」(あえてお酒を控えるライフスタイル)が若年層を中心に広がっています。
日本でも本格派が出揃ってきました。
- サッポロ「酔わないCRAFT」:IPAタイプの本格クラフトノンアル(0.00%、2023年発売)
- BRULO(ブルーロ):英国エディンバラ発、0.5%の低アル本格派
- Ciraffiti(シラフィティ):鳥取・株式会社トリクミによるノンアル/低アル専門ブリュワリー(全製品0.5%)
- 常陸野ネスト ノン・エール:茨城・木内酒造のロー・アルコール(0.3%)
ただし、ノンアル化には脱アルコール設備の投資や、味の組み立ての技術が要ります。中小ブルワリーには参入障壁が高いのが現実です。市場で勝ち残るのは、資本力のあるプレーヤーが中心になる可能性が高い。トレンドは追い風ですが、規模間格差を広げる要因にもなります。
和素材クラフトビールの広がり
ゆず・抹茶・山椒・清酒酵母など、日本固有の素材を使ったクラフトビールが各地で生まれています。和食との相性も良く、海外への発信力にもつながります。和食×クラフトの組み合わせはペアリング記事で詳しく解説しました。
一方で、現場のブルワーからは「またゆずか」「副原料に頼りすぎではないか」という声も出始めています。差別化の一手段としては有効ですが、ベースとなるピルスナーやペールエールなどの品質を磨かないと、リピーター獲得にはつながりません。
ベース品質への回帰
派手な副原料に頼らず、定番スタイルの完成度を上げることに集中するブルワリーも増えています。海外の品評会で評価されているのは、こうした「基本に厚い」ブルワリーです。
クラフトビールの本質はホップ・モルト・酵母・水の組み立て。ピルスナーやペールエール、IPAなど定番スタイルで唸らせる1本を作れるかどうか。2026年は、副原料の華やかさと基本の厚みの両輪が問われる年になりそうです。
まとめ|クラフトビール市場2026は「成長と淘汰の並走」の年
クラフトビール市場2026年の現在地を整理します。
市場規模は約360億円から1,000億円突破が視野に入る一方、現場では原材料高騰・廃業の波・人材不足という逆風も吹いています。2026年10月の酒税法改正は、長期的には「価値で選ばれる」文化を後押ししますが、短期的には大手の価格競争力強化という影もあります。
891社というブルワリー数の意味は、これからの2〜3年で大きく変わる可能性があります。「数の成長」から「中身の成長」へ。淘汰の中で残っていくのは、味・ストーリー・経営力を兼ね備えた事業者です。
愛好家として何ができるか。答えはシンプルです。気になるブルワリーの1本を、実際に飲んでみる。
新しい1本との出会いが、ブルワーへの直接のエールにもなります。クラフトビール初心者の方は、軽快なセッションビールや飲みやすいIPAから入るのもおすすめです。
23歳の時に古いビル1棟を飲食ビルにして起業。
ビールが好きすぎてクラフトビール醸造はじめちゃいました。

