はじめに
ビールなのに塩味がする。そう聞くと驚く人も多いはずです。ゴーゼ(Gose)は、ドイツ生まれのサワービール(乳酸発酵で酸味をつけたビール)の一種です。軽い酸味に、塩とコリアンダーシードの香りが重なる個性派スタイルです。
この記事では、ゴーゼの定義と歴史、造り方の技術的なポイント、日本で飲める国産ブルワリーの銘柄、美味しい飲み方までを解説します。まずは基本の定義から見ていきましょう。
ゴーゼの定義|小麦・塩・コリアンダーが生む酸味とミネラル感

ゴーゼは、小麦麦芽を50%以上使ったビールです。乳酸菌で軽い酸味をつけたのち、コリアンダーシード(パクチーの種で、レモンやオレンジのような柑橘香がある香辛料)とわずかな塩を加えて仕上げます。
BJCP(ビール審査員の国際団体)のスタイル基準では、アルコール度数(ABV)は4.2〜4.8%です。苦味の指標であるIBU(国際苦味単位)は5〜12と低く、ホップの苦味はほとんど感じません。色の濃さを示すSRM(標準参照法)も3〜4と淡く、見た目は薄い黄金色です。
塩は「舐めてわかる塩辛さ」ではありません。素材の輪郭をくっきりさせる隠し味程度の量に留めるのが良いゴーゼとされています。コリアンダーも、パクチーのような青臭さではなく、レモンピールに近い爽やかな香りが理想です。
ベルリナーヴァイセとの違い
ドイツの酸味系小麦ビールとして、ベルリナーヴァイセ(Berliner Weisse)と混同されがちですが、飲み方が異なります。ベルリナーヴァイセはラズベリーやウッドラフのシロップを加えて飲む文化が本場ベルリンにあり、酸味をシロップでやわらげます。一方ゴーゼは、塩とコリアンダーの風味をそのまま楽しむため、基本的にストレートで飲みます。同じ酸味系でも「割って飲む」か「そのまま飲む」かが、両者を見分ける実用的なポイントです。
ゴーゼの歴史|ドイツ・ゴスラーからライプツィヒ、そして世界へ
ゴーゼの発祥地は、ドイツ中部の町ゴスラーです。ゴーゼ川という川の名前がスタイル名の由来とされ、起源は中世(12〜15世紀ごろ)にさかのぼります。塩気を帯びたゴスラー周辺の湧き水がビールに独特の風味を与えたことが、このスタイルの始まりだと考えられています。
18世紀になると、ゴーゼはゴスラーから南東へ約150キロ離れたライプツィヒへ伝わりました。1738年、アンハルト=デッサウ侯レオポルト1世がライプツィヒ市当局から許可を得てゴーゼ酒場を開いたことがきっかけとされ、その後もライプツィヒでゴーゼ文化は着実に根付いていきました。1900年ごろには、市内に80軒ものゴーゼ専門酒場があったといわれます。老舗酒場「Ohne Bedenken(オーネ・ベデンケン、「心配無用」の意)」は1899年創業です。空襲の被害や東ドイツ時代の閉鎖を経て1986年に再興され、現在もライプツィヒでゴーゼを飲める名所として知られています。
第二次世界大戦後、ゴーゼは急速に姿を消していきます。要因は戦災だけではありません。戦後の東ドイツで醸造業が国営化され、生産効率を優先してピルスナーなど画一的なスタイルへ集約されたことが、手間のかかるニッチスタイルであるゴーゼを衰退させました。1966年には、最後まで残っていたライプツィヒの醸造所が閉鎖し、生産がいったん途絶えます。
復活のきっかけは1980年代半ばのドイツです。1986年ごろにゴーゼ酒場の再建とベルリンの醸造所との提携が進み、その後アメリカのクラフトビール運動に取り入れられ、世界中のブルワリーが独自のゴーゼを造るようになりました。現代的なゴーゼ復活の象徴とされるのが「Ritterguts Gose」です。日本のクラフトシーンでゴーゼを見かけるようになったのも、この世界的な復興の流れの延長線上にあります。
塩とコリアンダーを使うゴーゼは、原料を麦芽・ホップ・水・酵母に限定する「ビール純粋令」には本来反します。しかし地域の伝統スタイルとして、例外的に認められています。
ゴーゼの造り方|低IBUと非ヨウ素塩がカギ
ゴーゼの醸造は、まずピルスナーモルトと小麦麦芽を主原料に仕込みます。小麦の比率が高いため、泡持ちが良くとろみのある口当たりになります。
酸味は乳酸菌(ラクトバチルス)を使ってつけます。歴史的なゴーゼは、自然にすみついた菌にまかせる自然発酵でした。現代のブルワリーの多くは、狙った乳酸菌だけを管理して加える「ケトルサワー製法」を採用しています。麦汁を煮沸する前に乳酸菌を加えて短時間で酸味をつけ、そのあと煮沸して菌の働きを止めてから通常の酵母で発酵させる方法です。雑菌汚染のリスクを抑えながら、狙った酸度に仕上げやすいのが利点です。
ゴーゼのIBUが低いのは、単なる伝統ではなく醸造上の制約でもあります。ホップの苦味成分(イソα酸)には抗菌作用があり、乳酸菌の働きを妨げてしまうためです。そのため酸味付けの工程前後は、ホップをほとんど使えません。
塩は精製塩やヨウ素添加塩を避け、海塩や岩塩を使うのが基本です。ヨウ素には酵母や乳酸菌の働きを妨げる可能性があり、風味にも独特のクセが出やすいためです。コリアンダーは煮沸の終盤や発酵後に加えて、香りを立たせます。塩とコリアンダーの量のバランスは、ブルワリーごとの個性が最も出る部分です。
日本で飲めるゴーゼ|国産クラフトブルワリーのおすすめ銘柄

ゴーゼは輸入ビールだけのものではありません。国内のクラフトブルワリーも、地域の素材を生かした個性的なゴーゼを造っています(アルコール度数は仕込みによって変動するため、目安として紹介します)。
新潟県の月岡ブルワリーは、新発田産レモンと赤穂の塩を使ったABV5%前後のゴーゼ「月と海」を手がけています。東京・国立のクニタチブルワリーは、柑橘と海塩を効かせたABV3.5%前後のさわやかな一杯を出しています。
地域色をより強く打ち出した例もあります。北海道上富良野の忽布古丹醸造(HOP KOTAN BREWING)は、乳酸菌・塩・コリアンダー・オレンジピールを使ったライプツィヒスタイルのゴーゼ「辛酸を嗜める」を手がけています。高知県のSOUTH HORIZON BREWINGは、県産の柚子と塩を使ったゴーゼスタイルのサワー「Junos Pandemic」を造っています。徳島県上勝町のRISE & WIN Breweryも、地元の海水塩と伊予柑、柚子酢を使ったゴーゼ「Beyond The Sea」で知られるブルワリーのひとつです。
いずれも仕込みごとの単発・季節限定リリースが多いスタイルです。気になる1本があれば、各ブルワリーのSNSやクラフトビール専門店で在庫状況を確認してみてください。
ゴーゼの美味しい飲み方とペアリング
ゴーゼは5〜8℃程度によく冷やすと、酸味と塩味の輪郭がすっきり際立ちます。グラスはチューリップ型や小ぶりのグラスを使うと、コリアンダーの柑橘香が立ちやすくなります。
塩気があるスタイルなので、牡蠣やセビーチェ(魚介の酸味漬け)との相性は特に良く、塩味同士が喧嘩せずに旨みを引き立てます。山羊のチーズやスパイシーなタイ料理とも好相性で、酸味と塩味が脂や辛みをさっぱり流してくれます。より幅広いペアリングの考え方は、クラフトビールに合う料理のペアリングガイドでも詳しく紹介しています。
苦味は控えめですが、酸味と塩味という別の個性があるスタイルです。「苦いビールが苦手」な人には試しやすい一方、酸っぱいビールに慣れていない人にはむしろ新鮮に感じられるかもしれません。サワービール全般の入り口としては、サワービールとは?種類と選び方もあわせて参考にしてください。酸味を生み出す乳酸菌や酵母の働きをもっと知りたい方は、ビール酵母の種類と選び方で解説しています。
まとめ
ゴーゼは、ドイツ・ゴスラー発祥の塩とコリアンダーが香るサワービールです。低いIBUは伝統というより、乳酸菌とホップの相性からくる醸造上の制約でもあります。
一度は生産が途絶えたものの、1980年代に復活して世界中に広がりました。いまでは日本のクラフトブルワリーも、地域の素材を生かした個性的なゴーゼを造っています。牡蠣やチーズと合わせながら、まずは1本試してみてください。
23歳の時に古いビル1棟を飲食ビルにして起業。
ビールが好きすぎてクラフトビール醸造はじめちゃいました。
