ビール酵母の種類と選び方|エール酵母とラガー酵母の違い

ビール講座

ビールの味や香りは、原料だけでなく「酵母」の種類で大きく変わります。同じモルトとホップを使っても、酵母が違えばまったく別のビールになります。この記事では、エール酵母・ラガー酵母・ベルジャン酵母・野生酵母の特徴と、ラベルから酵母のタイプを見分けるコツを解説します。

エール酵母(上面発酵酵母)とは

エール酵母は15〜25℃前後の比較的高い温度で発酵します。発酵中に酵母が液面に浮かぶ性質があり、この見た目から「上面発酵酵母」と呼ばれています。主発酵には5〜7日ほどかかり、そのあとの熟成期間を含めると仕上がりまで数週間ほどです。フルーティーな香りを生み出しやすいのが特徴で、IPAやペールエールなど香りを楽しむスタイルの多くはエール酵母で造られています。

ただし同じエール酵母でも個性はさまざまです。米国系の「US-05」のように香りを抑えたクリーンな設計の株もあれば、香りを強く出す株もあります。

エステルとは何か

エール酵母が生み出す果実のような香りの正体は「エステル」という香気成分です。酵母の酵素の働きでアルコールと酢酸(アセチルCoA)が結びつき、バナナやリンゴ、洋梨に似た香りが生まれます。

なお、近年人気のヘイジーIPAが持つトロピカルな果実香は、エステルだけでなくホップ由来のチオール(硫黄化合物)の影響も大きいとされています。酵母とホップ、両方の働きが合わさって独特の香りが生まれている点も覚えておくと理解が深まります。

発酵中のビールの様子

ラガー酵母(下面発酵酵母)とは

ラガー酵母は8〜14℃前後の低温で1〜2週間ほどかけて発酵します。発酵が進むと酵母が液の底に沈むため「下面発酵酵母」と呼ばれる一方、エール酵母のように香気成分をあまり作りません。ラガーの特徴は、実はこのあとの工程にあります。0℃前後の低温で数週間から数カ月かけてじっくり熟成させる「レイジャリング」と呼ばれる工程を経ることで、雑味の少ないクリアな味わいに仕上がります。ピルスナーなど、日本の大手ビールの多くはこのラガー酵母を使っています。

ベルジャン酵母|スパイシーで個性的な香り

ベルギー発祥の酵母は、エステルに加えて「フェノール」という香気成分も多く作り出します。フェノールはクローブやコショウを思わせるスパイシーな香りのもとです。ベルジャンウィート酵母はリンゴや洋梨のような穏やかな香り、ベルジャンエール酵母はプラムやスパイスを思わせる複雑な香りを作り出します(バナナやバブルガムのような香りは、同じ小麦ビールでもドイツのヴァイツェン酵母に特徴的なもので、ベルジャン系とは別の個性です)。同じレシピでも、酵母をベルジャン系に変えるだけで印象が大きく変わります。

スタイルの異なるクラフトビールの飲み比べ

野生酵母・乳酸菌|自然発酵ビールの酸味

自然発酵ビールは、空気中や果皮など自然界に存在する野生酵母や微生物を取り込んで発酵させます。代表例がベルギーの伝統製法「ランビック」です。実はランビックの酸味を主に作っているのは野生酵母ではなく、乳酸菌や酢酸菌の働きです。野生酵母(ブレタノマイセスなど)は酸味そのものよりも、革や馬小屋を思わせる複雑な香りを加える役割を担っています。複数の微生物が混ざり合うことで、単一の酵母では出せない奥行きが生まれます。サワービールの酸味についても、サワービールとは?種類と選び方で詳しく解説しています。

ビールを選ぶときに酵母をどう見ればいいか

パッケージに酵母名が書かれていることは少ないですが、スタイル名からある程度は見分けられます。

  • IPA・ペールエール・スタウト:基本的にエール酵母
  • ピルスナー・ラガー:名前の通りラガー酵母
  • ベルジャン系、セゾン(ベルギー発祥の農家系エールで、ホワイトペッパーのようなスパイシーな香りが特徴):ベルジャン系酵母
  • ランビック、ワイルドエール:野生酵母・乳酸菌が使われているサイン

フルーティーな香りを楽しみたいときはエール系を選びましょう。すっきり飲みたいときはラガー系がおすすめです。原料選びの基礎についてはクラフトビールのモルト(麦芽)の種類と選び方もあわせて参考にしてください。

まとめ

ビールの個性は、ホップやモルトだけでなく酵母によっても大きく決まります。エール酵母はフルーティーな香りを、ラガー酵母は熟成によるクリアな味わいを生み出します。ベルジャン酵母はスパイシーな個性を加え、野生酵母や乳酸菌は独特の酸味と複雑さをもたらします。それぞれの特徴を知っておくと、スタイル名を見ただけでビールの味わいを想像できるようになります。次にビールを選ぶときは、ぜひ酵母の視点でも銘柄を見比べてみてください。

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