クラフトビールの色や香ばしさは、ホップだけでなく「モルト(大麦を発芽させてつくる麦芽)」の選び方で大きく変わります。
この記事では、モルトの基本的な役割から、ベースモルトとスペシャルティモルトの違い、ロースト度による色と風味の変化、ビアスタイルごとの使い分けまでを解説します。レシピの配合を考えるときに、味のブレの原因をモルトから逆算できるようになることを目指します。
モルト(麦芽)とは?ビールの土台をつくる原料
モルトは、大麦を発芽させたあとに乾燥させてつくる原料です。この乾燥工程は「焙燥(ばいそう)」と呼ばれます。発芽の過程ででんぷんを糖に変える酵素がつくられ、この酵素が仕込み(糖化)の工程で働くことで、麦汁に糖分が溶け出します。溶け出した糖を酵母が発酵させることで、アルコールと炭酸ガスが生まれます。
モルトは大きく「ベースモルト」と「スペシャルティモルト」の2つに分けられます。なお、スタウトなどで使う「ロースト大麦」は、発芽させずに大麦をそのまま焙煎したものです。厳密には”麦芽”ではありませんが、モルトと合わせて配合されることが多いため、本記事でも扱います。

ベースモルト:糖化の主役
ベースモルトは、糖化に必要な酵素を豊富に持つモルトです。焙燥の温度が比較的低いため色が淡く、クセの少ない味わいが特徴です。
ピルスナーモルト
もっとも淡い色のベースモルトです。色度数はEBC(ヨーロッパ醸造協会が定める色の単位)で2〜4程度。パンのような優しい香りとすっきりした味わいがあり、ピルスナーやラガーのベースに使われます。ピルスナーのようなスタイルでは、ベースモルトだけで配合を組むことも珍しくありません。
ペールモルト
ピルスナーモルトよりやや焙燥温度が高く、EBCで7〜9程度です。ビスケットのような香ばしさとほのかな甘みがあり、この甘みがホップの苦味と喧嘩せず、ペールエールやIPAの骨格を支える役目を果たします。
ミュンヘンモルト・ヴィエナモルト
同じ「アンバー系ベースモルト」として並べられがちですが、色度数には差があります。ヴィエナモルトはEBCで6〜9程度とペールモルトに近い淡さです。一方のミュンヘンモルトはEBCで12〜30程度と幅が広く、ライトなものでも15前後、ダークなものは30近くまで焙燥します。トースト香が強く、麦芽そのものの甘みとコクを感じさせるため、オクトーバーフェストビールやアンバーエールなど、麦芽の存在感を強調したいスタイルに向いています。
スペシャルティモルト:色・香り・ボディを決める脇役
スペシャルティモルトは、酵素をほとんど持たず、糖化にはあまり貢献しません。その代わり、色・香り・コクを加える目的で使われます。焙燥・焙煎の温度によって、大きく3つのタイプに分けられます。
クリスタルモルト(カラメルモルト)
蒸した大麦を120〜160℃程度で焙煎してつくるモルトです。他のモルトと違い、製造工程の中ですでに澱粉が糖に変換されているため、マッシュ(お湯に浸けて糖化する工程)をしなくても風味成分を抽出できるという特徴があります。ただし生まれる糖の多くは、酵母が発酵できない「デキストリン」です。色や甘みだけでなく、ビールのボディ(口当たりの厚み)を左右する原料でもあるため、入れすぎるとくどい甘さになりがちです。淡色のものから濃色のものまで幅広く、アンバーエールやスコッチエールなどに使われます。
チョコレートモルト
165℃前後から220℃近くまで段階的に温度を上げて焙煎するモルトです。チョコレートやコーヒーを思わせる香ばしさが生まれ、ブラウンエールやポーターに深みを与えます。
ブラックモルト・ロースト大麦
ブラックモルトはチョコレートモルトよりもさらに高温・長時間で焙煎するモルトで、色度数はLovibond(ロービボンド、アメリカで使われる色の単位)で500近くに達することもあります。焦げたような強いロースト香とほろ苦さが特徴で、スタウトの黒い色と香ばしさの多くはこのモルトとロースト大麦によるものです。使いすぎると渋み(タンニン)が出やすいため、少量から試すのが無難です。
ビアスタイル別に見るモルトの使い分け
| スタイル | 中心となるモルト | ねらい |
|---|---|---|
| ピルスナー・ラガー | ピルスナーモルト | 淡い色とすっきりした麦芽の香り |
| ペールエール・IPA | ペールモルト | ホップの香りを邪魔しないコク |
| アンバーエール | ミュンヘンモルト・クリスタルモルト | 琥珀色と甘みのあるコク |
| ブラウンエール・ポーター | チョコレートモルト | 香ばしさと色の深み |
| スタウト | ブラックモルト・ロースト大麦 | 黒い色と焦がしたような苦味 |
実際のレシピでは複数のモルトを組み合わせて配合するのが一般的で、「ベース8割・スペシャルティ2割」といった比率はあくまで目安です。ピルスナーはベースモルトだけで配合することが多く、逆にインペリアルスタウトでは特殊麦芽やロースト大麦だけで全体の20〜30%を超えることもあります。狙うスタイルの色度数から逆算して配合を決めるのが基本の考え方です。

モルト選びの実践的なポイント
国内の醸造現場やホームブルーイングショップで流通量が多いのは、ドイツのヴァイヤーマン(Weyermann)です。イギリス系ならクリスプやシンプソンズ、アメリカ系ならブリスやラールも定番として知られています。同じ「ミュンヘンモルト」でもメーカーによって焙燥香の強さが変わるため、まずは流通量の多いメーカーの定番ラインから試し、慣れてきたら飲み比べて好みを絞り込むと理解が深まります。
なお、日本では酒税法上、アルコール度数1%以上のビールを個人が無許可で醸造することは認められていません。ホームブルーイングキットの多くは1%未満を想定した麦汁づくりの体験用で、本格的な仕込みを行うには酒類製造免許の取得が前提になります。
まとめ
モルトは、ベースモルトが土台をつくり、スペシャルティモルトが色・香り・ボディを加えるという役割分担で、ビールの味を形づくっています。ロースト度が上がるほど色は濃く、香ばしさや苦味は強くなるという関係を覚えておくと、ビアスタイルごとの違いも理解しやすくなります。
まずはヴァイヤーマンなど流通量の多いメーカーのペールモルトを軸に、クリスタルモルトを1〜2割加えるところから試してみると、配合による味の変化を体感しやすいはずです。ビール醸造に必要な道具を知りたい方はビール醸造に必要な道具・器材一覧と選び方|初心者向け、醸造の全体像を知りたい方は自宅でできるクラフトビールの作り方|初心者向け完全ガイドの記事もあわせてご覧ください。
23歳の時に古いビル1棟を飲食ビルにして起業。
ビールが好きすぎてクラフトビール醸造はじめちゃいました。

