クラフトビールには「小さな醸造所が手作りする、環境にやさしい飲み物」というイメージがあります。しかし実際の醸造は、水とエネルギーを大量に使う資源集約的な産業です。海外の先進ブルワリーが取り組む脱炭素・節水・廃棄物削減の事例から、クラフトビールとサステナビリティの関係を見ていきます。
なぜ今、クラフトビールに「サステナブル」が求められるのか

ビール醸造は、モルト(麦芽)を温水と合わせてデンプンを糖に変える「糖化(マッシング)」から始まります。次にろ過して麦汁(ウォート)を取り出し、ホップを加えて煮沸、冷却してから酵母を加えて発酵させる、という流れです。この工程全体で大量の水とエネルギーを使います。
醸造では一般的に、ビール1リットルを造るのに3〜7リットル前後の水を使います。設備の効率が悪いと10リットルを超えることもあります。またろ過の工程で「麦芽粕(スペントグレイン)」と呼ばれる搾りかすが大量に出て、醸造所の固形廃棄物の大部分を占めます。
酒類業界でもESG(環境・社会・企業統治への配慮)投資や脱炭素の流れが強まっています。海外の中堅・大手クラフトブルワリーでは、イメージ戦略というより、コスト削減や取引先からの要請として環境対策を進めるケースが増えてきました。
海外ブルワリーの環境配慮事例
米ニューベルジウム「ファットタイヤ」のカーボンニュートラル認証
アメリカのニューベルジウム・ブリューイング(New Belgium Brewing)は、看板商品「ファットタイヤ(Fat Tire)」を展開しています。2020年、同社はこのビールで全米流通ビールとして初めてカーボンニュートラル認証を取得しました。製造・流通で排出したCO2量を実質ゼロにする認証です。
同社は1999年に米国初の風力発電ブルワリーとなりました。同社の発表によれば、現在は電力の約6割を再生可能エネルギーでまかない(2030年までに100%達成が目標)、廃棄物の99.9%をリサイクル・再利用・堆肥化しているとのことです。残る排出分は環境プロジェクトへの投資で相殺(オフセット)する仕組みで、この手法を他のブルワリーも参考にできるよう公開しています。
なお同社は2019年、豪州の大手酒類グループ傘下に入っています。独立系クラフトブルワリーとしての規模の大きさが、こうした環境投資を可能にしてきた面もあります。
米シエラネバダの節水・太陽光・麦芽粕リサイクル
シエラネバダ・ブリューイング(Sierra Nevada Brewing)のノースカロライナ工場には、大規模な太陽光パネルが設置されています。雨水を貯留して再利用する設備も備え、水の使用量を抑える工夫をしています。
麦芽粕はほぼすべてを近隣の農家が飼料として引き取っており、廃棄物をほぼ出さない体制を作っています。同社を含む多くの中堅ブルワリーでは、発酵で発生するCO2を回収して再利用する設備投資も進んでいます。
麦芽粕(スペントグレイン)の再利用:捨てないビール造り

麦芽粕は醸造所から出る固形廃棄物の中でも特に量が多い副産物です。水分を多く含むため傷みやすく、毎日から数日おきの引き取りが欠かせません。海外では農家が飼料として引き取るモデルが定着しています。一方、日本の都市部の醸造所では近隣に受け入れ農家が見つからないことも多く、産業廃棄物として費用をかけて処分せざるを得ないケースが少なくありません。
近年は飼料や堆肥だけでなく、パンや焼き菓子の材料、紙製品の原料へのアップサイクル(廃棄物を元の用途より価値の高いものに作り替えること)も試みられています。日本でも麦芽粕を使ったクラフト紙製品がギフトボックスとして商品化されており、段ボールへの応用も検討されています。余った規格外の農産物やパンを原料の一部に使う「サーキュラービール(循環型の材料調達で造るビール)」も、海外を中心に登場しています。
日本のクラフトビール業界の動き
長野県のヤッホーブルーイングは2025年、脱炭素支援サービスのZeveroと協業しました。同社によれば、国内クラフトビールメーカーとして初めて、製造工程の温室効果ガス排出量の算出・開示を始めています。海外の中堅ブルワリーのようにカーボンニュートラル認証を取得した事例はまだ見当たらず、業界全体としては発展途上の段階です。
小規模な醸造所でも、省エネ性能の高い仕込み釜や冷却設備を選ぶ動きは出てきています。ただし、環境配慮型の設備は導入コストが高いという課題があります。資金力のある大手と、日々の運転資金にも苦労する新規開業者との間には、投資余力の差があるのが実情です。
消費者にできること:サステナブルなクラフトビールの選び方
環境に配慮したクラフトビールを選ぶといっても、認証マークが必ずあるわけではありません。次の視点でラベルや醸造所の情報を見ると、選びやすくなります。
- 地元の醸造所を選ぶ:輸送距離が短いほど、輸送にかかるCO2排出を抑えられます。
- 容器の種類を意識する:軽量な缶は輸送時のエネルギー消費を抑えやすい容器です。樽(ケグ)での量り売りは、容器あたりの環境負荷がさらに低いといわれています。
- 醸造所の情報発信を確認する:環境への取り組みを具体的な数値とともに公表している醸造所ほど、実際の対策も進んでいます。
日々の一杯を選ぶときにこうした視点を持つことが、業界全体を後押しする応援消費(好きな造り手を支援する目的で商品を選ぶ行動)につながります。
まとめ
海外の先進ブルワリーは、カーボンニュートラル認証の取得や節水設備、麦芽粕のリサイクルといった対策を積み重ねてきました。ただしその多くは体力のある大手だからこそ実現できている面もあります。日本の業界がこれから同じ道を歩むには、都市部での麦芽粕処理や設備投資コストといった、海外とは違う課題に向き合う必要があります。
海外のクラフトビール市場の動きについてはクラフトビール市場2026|数字で見る成長と酒税法改正の影響、M&Aの最新動向は海外クラフトビールのM&A動向2026、輸出面の取り組みは日本のクラフトビールが海外で評価される理由でもあわせて紹介しています。
23歳の時に古いビル1棟を飲食ビルにして起業。
ビールが好きすぎてクラフトビール醸造はじめちゃいました。
