アメリカのクラフトビール界でクラフトモルトへの注目が高まっています。
クラフトモルトへの注目が集まる理由は2つあります。
- クラフトモルトは環境に優しい
- クラフトモルトはビールの味わいと香りを豊かにする
今回は、アメリカでクラフトモルトへの注目が集まっている背景について紹介します。
クラフトモルトは環境に優しい
クラフトビール醸造所はいかに自分たちが作るビールを環境に優しいものにできるかに大きな関心を持っています。
環境への影響を抑えることは、コロラド州フォートコリンズを拠点とするHorse & Dragon Brewing社のカロル・コクラン氏が地元のモルト生産者と協力関係を持つきっかけになりました。
「コロラド州北部で生産されたモルトを使うことで、私たちがビールを作るときに発生する温室効果ガスの排出量を抑えることができます」とコクラン氏は語ります。
一方で、ニューヨーク州ロングアイランドにあるBig aLICe醸造所にとっても持続可能性は重要なテーマです。環境への配慮が、Big aLICe醸造所が2013年からクラフトモルトを使用している理由です。
「持続可能性は私たちのアイデンティティであり使命です。たとえ利益に支障があったとしても私たちは正しいことをします。地元で環境に配慮した生産方法で栽培された穀物を使うことも私たちの方針の一部です」とBig aLICeの醸造責任者兼生産管理者のジョン・キエルティ氏は語っています。
実際に、Big aLICe醸造所では、自社が醸造するすべてのビールにニューヨーク州で生産されたモルトを少なくとも20%使っています。2020年には使用割合は32%にまで増えました。
クラフトモルトはビールに豊かな味わいと香りをもたらす
環境に優しいこと以外にも、クラフトビール醸造所がクラフトモルトを選ぶ理由はあります。
味も重要な要素です。モルトはビールの魂とまで呼ばれています。
Mainstem Malt社のCEOであるフィル・ニューマン氏はモルトの魅力について次のように語ります。
「モルトはビールに必要なすべての糖分と、味わいのほとんどをもたらします。ホップも素晴らしいですが、モルトの方がより重要な材料だと言えます。」
モルトの新鮮さはビールの味わいに影響します。さらに、ビールの香りを豊かにさせることができることもクラフトモルトの特徴の一つです。
「製麦してから1ヶ月後にはモルトが持つ繊細な香りは失われてしまいます。大手メーカーのモルトだと使用されるまでに8〜12ヶ月かかることもあります。私たちが焙煎したモルトの袋は一昼夜後には開封されるため、数ヶ月間も長距離を移動してきたモルトとは香りが違うのです」とEpiphany Craft Malt社の創業者であるセバスチャン・ウォルフルム氏は語ります。
一方で、Perfect Plain醸造所の醸造責任者であるリード・オディニール氏はこう付け加えます。
「大手メーカーのモルトは一貫性にこだわりますが、クラフトモルトは大手メーカーのモルトにはないニュアンスをビールに与えることができます。クラフトモルトはバラエティに富んでいます。」
さらに、クラフトビール醸造所が地元のモルト生産者とコネクションを持つことにより、自分たちの要望を生産者に伝えることができます。これは、大手メーカーが相手だとできないことです。
クラフトモルトは醸造所と生産者との距離を縮めます。生産者と協力関係を築くことで、自分の醸造所に合ったモルトを作り出すことができるのです。
クラフトモルトの将来は明るく見えます。しかし、全ての醸造所が自分達の使うモルトを見直すようになるまでにはまだしばらく時間がかかるでしょう。
North American Craft Maltsters Guildの代表者であるジェシー・バサード氏は「ワインメーカーがぶどう、コーヒーメーカーがコーヒー豆について考えるのと同じ感覚で、醸造所もモルトについて考えるべきだ」と語っています。
参照記事
“Why Craft Beer Is Turning to Craft Malt”