バーロフ(ロイタリング)・スパージングの基礎|麦汁をクリアに、糖の回収を最大に

シリーズ②で糖化した麦汁は、まだ大量の麦芽粕(スペントグレイン)と混ざった「おかゆ」状です。ここから澄んだ麦汁だけを取り出し、粕に残った糖を洗い出すのが本工程です。目標は「クリアな麦汁を得る」ことと「糖の回収率を上げる」ことの2つですが、この2つは無理に追うと渋みという副作用が出ます。研修の受講を考えている方はもちろん、独学でビール造りを学びたい方にも読んでいただけるよう、本記事はシリーズ③として、バーロフ・ロイタリング・スパージングの手順と勘所を解説します。

この工程の本質|殻の層をフィルターにして麦汁を抜き取る

ロイタリング(麦汁ろ過)でやっていることは、ろ紙を使わずに、堆積した麦芽の殻そのものをフィルター層(グレインベッド)として使い、その層を通して麦汁だけを引き出す——という作業です。

シリーズ①・②で「粉砕のとき殻をできるだけ壊さず残す」と説明したのは、この工程のためです。殻が細かく砕けていると層が目詰まりし、麦汁が流れなくなります。つまりこの工程の成否は、粉砕の段階ですでに半分決まっています。

① ロイタータンの構造と麦汁の通り道

麦汁ろ過を行う容器(ロイタータン、または兼用のマッシュ/ロイタータン)は、おおむね次の要素でできています。

  • フォルスボトム(またはマニホールド):本体の底から少し上に張った、細いスリットの入った板やパイプ。麦芽粕は通さず、麦汁だけを下へ通す
  • グレインベッド:フォルスボトムの上に堆積した麦芽粕の層。これが実際のフィルターとして働く
  • スパージ水の散水装置:ベッド上面に湯を均一に撒くためのアームやリング
  • 麦汁の引き出し口:フォルスボトムの下から麦汁を抜き、煮沸釜(ケトル)へ送る

麦汁は「ベッド上面 → 殻の層を鉛直に通過 → フォルスボトム下 → 引き出し口 → ケトル」という順で移動します。この流れが速すぎるとベッドが下向きに圧縮され、目詰まりの原因になります。

ロイタータンの断面図。フォルスボトム、グレインベッド、スパージ水の散水、麦汁の引き出し口を示す
図1:ロイタータンの断面

② バーロフ(麦汁循環)|フィルター層を安定させる

ろ過を始めた直後に出てくる麦汁は、殻くずや粉が混じって濁っています。これをそのままケトルに送ると、雑味や濁りの原因になります。

そこで、最初に出る麦汁を静かに引き出し、ベッドの上面に戻す循環を行います。これをバーロフ(ヴォアラウフ)、または麦汁循環(リサーキュレーション)と呼びます。循環を続けると、細かい粒子がベッドに捕捉されてフィルター層が締まり、麦汁が徐々に澄んできます。数リットル〜十数リットル程度で透明感が出てきたら、循環をやめて本取り(ケトルへの送り)に切り替えます。

コツは「急がない」ことです。ポンプの流量を絞り、戻す麦汁でベッド上面をえぐらないよう静かに撒きます。ここでベッドを乱すと、澄むまでに時間がかかります。

バーロフ(麦汁循環)の経路と、循環前は濁り、循環後は透明になる様子を示す図
図2:バーロフ(麦汁循環)

③ スパージング|残った糖を洗い出す

本取りを進めると、ベッドの中の麦汁は減っていきますが、麦芽粕にはまだ糖を含んだ液がたっぷり保持されています。これを湯で洗い流して回収するのがスパージング(湯洗い)です。

  • 湯温:約76℃前後。上げすぎない(78℃前後を上限の目安とする)
  • ろ過麦汁のpH:6.0を超えないように保つ。pHが高いと殻由来の渋み成分(タンニン)や未分解のデンプンが溶け出しやすい。近年は湯温そのものよりpH管理が本質的とされる
  • 回収の終点:最終ランニング(最後に出てくる麦汁)の比重が 1.008〜1.012 程度、またはpHの上昇を目安に止める。これより薄くなるまで搾ると、水っぽさと渋みが増えて逆効果

シリーズ②で触れたマッシュアウト(76〜77℃への昇温)を行っておくと、麦汁の粘度が下がり、スパージがスムーズになります。

④ フライスパージ vs バッチスパージ

スパージの方法は大きく3つあります。

  • フライスパージ(連続式):麦汁を引き出しながら、同じ速度で湯を上面に散水し、ベッド上の液面をうっすら保ったまま連続的に洗う。回収率が高いが、時間がかかり、均一に撒く散水装置が要る
  • バッチスパージ:ベッドの液をほぼ出し切る → 湯をまとめて加えてよく混ぜる → 再び静置・バーロフ・引き出し、を1〜2回繰り返す。手順が単純で時間が短く、小規模設備向き。回収率はフライよりやや落ちる
  • ノースパージ:湯量比を高めに取ってスパージを行わない。最も単純だが回収率は下がり、大量の麦芽が必要になる

どれが良いかは設備で決まります。散水アームがなく、加熱や撹拌をマッシュタンで兼ねる構成では、バッチスパージが現実的な選択になることが多いです。

フライスパージとバッチスパージの運用の違いを比較した図
図3:フライスパージ vs バッチスパージ

⑤ スタックスパージ(ろ過が詰まる)の原因と対策

ろ過中に麦汁が流れなくなる「スタック」は、この工程で最も多いトラブルです。主な原因と対策は次のとおりです。

  • 粉砕が細かすぎる/殻が砕けすぎている:フィルター層が目詰まりする。ミルのローラー間隔を広げ、殻を割らずに胚乳だけを砕くよう調整する
  • 殻のない・少ない穀物の比率が高い:小麦・ライ麦・オーツ麦などを多用すると層が締まりすぎる。ライスハル(籾殻)を穀物量の1〜5%程度加えて層に隙間を作る
  • 引き出しが速すぎる:ベッドが下向きに圧縮されて詰まる。流量を絞る。圧縮してしまったら、いったん引き出しを止め、ベッドを軽くほぐす(またはフォルスボトム下から湯を逆に入れて持ち上げる「アンダーレット」)
  • フォルスボトム/マニホールドの目詰まり・デッドスペース:スリットの詰まりや、麦汁が滞留する死角。定期的な分解洗浄と、構造の見直し
  • マッシュアウト不足で麦汁の粘度が高い:昇温を確実に行う
スタックスパージの原因(粉砕・原料・引き出し速度・設備)を整理したマップ図
図4:スタックスパージの原因マップ

国内の小規模醸造所で意識しておきたい点

  • 兼用タンクは撹拌翼の扱いに注意:マッシュとロイターを1槽で兼ねる設備では、撹拌翼がグレインベッドを乱したり圧縮したりしやすい。糖化後は撹拌を止め、ベッドが自然に落ち着く時間(10〜15分程度)を取ってからバーロフに入る
  • バッチスパージ前提で歩留まりを設計する:回収率がフライより落ちる分は、グリスト量や仕込み容量の設計で吸収する。無理に薄くまで搾って渋みを出すより、回収率が低い前提でレシピを組むほうが安定する
  • ブリューハウス効率を毎回記録する:仕込みごとに回収率(想定糖量に対する実収量)を記録し、自社設備の「クセ」を数値で把握しておくと、レシピの再現性が上がる

まとめ

バーロフ・スパージングは、①ロイタータンの構造と麦汁の流れを理解し、②バーロフでフィルター層を安定させて麦汁を澄ませ、③約76℃・pH6.0以下でスパージして糖を回収し、④設備に合った方式(多くはバッチスパージ)を選び、⑤スタックの原因を粉砕・原料・速度・設備の面から潰す——という流れで進めます。「クリアさ」と「回収率」はトレードオフ気味であり、渋みを出さずに両立させる調整がこの工程の核心です。

次回シリーズ④では、回収した麦汁を煮込む「ボイル(煮沸)」を詳しく扱います。

麦汁ろ過のトラブル対応や、自社設備での回収率の高め方を実際の仕込みで学びたい方は、醸造研修プログラムの受講もひとつの選択肢です。

醸造研修プログラムの詳細はこちら

参考資料

本記事の手順・数値の記載は、以下の資料に基づいています。

ロイタリング・スパージングの手順と回収率

スパージ湯温・pHと渋み

タイトルとURLをコピーしました