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2015.10.25

ビールができるまで、その起源と製造工程

■ビールができるまで、その起源と醸造工程。

初めてビールを造ったのは現代のトルコ、イラク、イランにまたがるクルディスタンと呼ばれる地域に暮らす新石器時代の人々であったとする説の信ぴょう性は極めて高い、とされています。それらの地域に住む人々は、紀元前1万年頃にはすでに耕作を始め、大麦が麦芽になる工程を偶然発見し、ビールを造る技術を発達させたという説が有力視されているからです。

ビールに限らずその他の酒造りの技術は、アジアやアフリカ、南北アメリカ大陸の各地で、その土地で耕作できるあらゆる穀物や果実を使って、それぞれの地域独自に発達したと考えられています。人々が移動型の生活様式を放棄して、穀物などを栽培するようになった定住型の暮らしをするようになり、その穀物の中からビール造りに適した穀物が栽培されるようになった、という説もあります。(なんだか歯切れの悪い言い方で、すみません。なにしろ6000年以上も前の大昔の話なので…ご容赦ください)。



◆メソポタミアのビール造り


それまで狩猟採集生活を送っていた移動民族の中で、最初に定住して穀物栽培をしたのは、シュメール人だったとヨーロッパ史では考えられています。シュメール人はティグリス川とユーフラテス川に囲まれた現在のイランとイラクにあたる土地(南部メソポタミア)で生活していました。車輪と文字を発明し、中東で最初の非常に重要な文明を生み出したとされています。

そのメソポタミア文明の痕跡は、考古学者によって発掘された紀元前4000年から3000年頃のものとされる粘土板に描かれた、古代から伝わる「ニンカシ女神賛歌」の中に数種類のビールとその造り方の記録として残っています。

ニンカシという名前は「口を一杯にする女主人」という意味で、豊穣、収穫、性愛、戦闘を司る女神であると同時に、ビール造りの女神でもありました。

「ニンカシ女神賛歌」は2編の飲酒詩で構成されています。ひとつの詩はビール造りの方法を詳しく描き、もうひとつは酔う喜びを与えた女神を讃えています。

この粘土板は、シュメール人の都市ウルクで発見されました。その文章によれば、シュメール人は栽培した穀物から"パッピア"と呼ばれる2度焼きしたパンを作り、それを水に浸して自然醗酵させ、出来上がったものを濾す前にナツメヤシや蜂蜜で風味づけしていました。(醗酵を促進させるためであったという説もあります)。

ビールの種類は「黒ビール」「褐色ビール」「強精ビール」などと多数あり、神々に捧げられました。

飲酒はシュメール人にとって共同体を保つための行為であり、ビールの壺を囲んで座り、アシでできたストローを壺に差し込んで飲んでいました。ビールを飲む目的は、現代人とあまり変わらないのですね。裕福なシュメール人は身分の象徴として、黄金で装飾されたアシのストローを持参したと言われています。

紀元前2000年頃にバビロニア人が、シュメール人を征服すると、もっぱら家庭内の仕事だったビール造りは、市民と軍人の喉の渇きをいやすための、より組織的な事業となりました。

ウルクでは紀元前2000年から紀元前539年までの間に建てられた大規模な公共の醸造所の存在を示す考古学的な証拠が見つかっています。

バビロニアのハンムラビ王は、ビール醸造に関する規則の整備とビールの分類について記しています。「ハンムラビ法典」として知られる法律には、20種類のビールが特定されています。そのうち8種類は大麦のみを原料とするビールで、残りの12種類はその他の穀物をさまざまに組み合わせたものを原料にしていました。バビロニアのビールの中ではスペルト麦を原料にしたビールがもっとも高く評価されていましたが、小麦ビール、赤いビール、黒いビールなどの記述も見られます。それらが実際にどんなものだったのか、詳しくは分かっていません。また、醸造後に熟成させたビールはエジプトで特に珍重され、盛んに輸出されたとの記述もあります。


◆エジプトのビールづくり

エジプト人がビールを造っていたことは、今日ではよく知られています。少なくても紀元前3000年頃からハーブやショウガ、サフラン、ジュニパー(ヒノキ科のネズの実で、甘くピリッとした風味がある)を風味づけに使った"ヘケト"と呼ばれる強いビールを造っていたことは有名な話です。

シュメール人の先例が示すように、エジプト人にとってもビールはただ喉の渇きをいやし、あるいは酔うための飲み物というより、はるかに重要な役割を担っていました。

エジプト医学ではビールの持つ作用が重要視され、死者がいよいよ死後の世界に旅立つときは、神々への捧げものとして墓に収められました。"死者の書"には祭壇に"ヘケト"を供えるという記述がみられます。それは、エジプトの主神オシリスは豊穣、死と復活を司ると同時に、醸造に従事する者の守護神とみなされていたからです。

紀元前430年にギリシャの歴史家ヘロドトスはエジプトを訪れた際に、「エジプトではブドウが育たないので、エジプト人は大麦から造ったワインを飲む」と、ビールのことを書き記しています。

また、これも有名な話ですが、エジプトでは、ピラミッドをつくる労働者に報酬の一部として、通貨の代わりにビールが支給されていました。彼らにとってビールは、疲れをとる栄養ドリンクでありストレス解消剤でもありました。


◆ヨーロッパのビール造りは修道院から始まった

ブドウ栽培に適さない寒冷な気候のヨーロッパの国々では、たいてい大麦や小麦が育てられていました。そんな中で大規模なビール醸造は修道院を中心に始められました。オーストリア生まれの聖職者で醸造家の守護聖人であるメッツの聖アルノーは、612年にフランスの北東部の街メッツの司教座に就任。聖アルノーは不潔な水と伝染病の関係に気づき、水ではなくビールを飲むように説教の中で繰り返し説きました。


(※セント・アルノーと呼ばれる人は3人います。もう1人は同じくフランスのソワッソンの聖アーノルド、あと1人は、ベルギービールの守護聖人、アウデナールの聖アルノーです)。


一方、スイス北東部のザンクト・ガレン修道院の修道士が建設した醸造施設は、一般にヨーロッパ初の商業規模の醸造所とされています。829年に描かれた現存する設計図と、この修道院のビール醸造に関する11世紀の記録から、およそ40もの建物からなるザンクト・ガレン修道院には、3つのビール醸造所があり、きわめて統制のとれた、洗練されたビール造りが行われていたことがうかがえます。


ひとつの醸造所では大麦を原料に、小麦を混ぜたceliaという名の強いビールが造られ、修道院長や高位の聖職者、そして賓客だけに提供されていました。修道士や訪問中の巡礼者が飲むのは、第二の醸造所で燕麦(エンバク)を原料に造られ、ハーブで風味づけされたcervisaというビール。修道院で働く一般の信徒は、第三の醸造所で造られる、薄くて弱いビールで我慢しなければなりませんでした。


ビールを造るには煮沸した水を使うので、病原菌に汚染されている可能性の高い水やミルクよりも安全な飲み物となりました。高位聖職者、訪問者、修道士や一般の信徒は、みなそれぞれに3種類のビールを1日の間に定期的に飲んでいました。現存する記録によれば、100人を超える修道士、200人以上の一般信徒、修道院付属学校の数百人の学生が穀物の栽培とビール醸造に駆り出されていたようです。醸造は銅製の醸造釜を直火にかけてから、煮沸した麦汁(モルト)を冷却槽に入れ、さらに木製の醗酵用桶に移すという工程をたどっていました。


当時、醗酵は生物学的な観点で理解されていたのではなく、酵母の働きは一般には奇跡とみなされていました。ホップの持つすぐれた殺菌作用も発見されてはいましたが、それもまた奇跡のひとつだと思われていました。現代のビール愛好家は「ホップの効いた」ビールの風味を称賛しますが、中世ではホップの苦みをただまずいだけだと、考える人が多かったみたいです。ホップは9世紀にバイエルンで広く栽培されていたことが知られており、736年にはすでにドイツのハラータウ地方の修道院にホップ園が作られていたという記録があります。


ホップに加えて、修道院の醸造所はもうひとつ重要な技術革新を行いました。ホップの添加と同様に、その製法は現代まで受け継がれています。気温の高い夏場のビール造りは昔から難問でした。醗酵を抑制するのが難しく、細菌が混入してビールを腐らせる危険がいつも醸造家の頭を悩ませていました。


そこで、バイエルンの修道士は、涼しい地下室でビールを長期間保存することでこの問題を解決しました。こうすると酵母は樽の底に沈み、酵母が液の表面に浮いている場合に比べて醗酵がゆっくりと抑制された状態で進むことを発見したのでした。


"下面醗酵"と呼ばれるこの工程によって、ビールは以前よりもはるかに長く保存できるようになりました。この工程が"ラガーリング"と呼ばれるのは、ドイツ語で「貯蔵」という

意味の「ラーゲルンlagern」に由来するからです。


修道院醸造所は、実際のビール造りの工程にこうした実用的で多大な影響を与えたばかりでなく、現代のビール界にも欠かせない存在となっています。ベルギーの都市シメイやウェストマレのトラピスト会修道院のように、今もビール造りを続けている修道院醸造所はいくつもあります。また、現在では商業的醸造会社に「外注」されてはいますが、人気ブランドの"レフ"のビールは13世紀にベルギーのディナン近郊のレフ修道院が生産を始めたのが、その起源です。



■ビールの製造工程

ビールの主な製造工程は、大きく6つに分けることができます。⑴製麦工程、⑵仕込み工程、⑶醗酵工程、⑷熟成(後醗酵/二次発酵)、⑸ろ過または熱処理、⑹パッケージングの6つです。

それでは、順番に説明していきます。


  1. 製(せい)麦(ばく)工程=浸麦で発芽を促し、麦から麦芽(モルト)へ。麦を水中に浸漬(しんせき)して発芽と生育に必要な水分を供給することを「浸(しん)麦(ばく)」と呼びます。麦は浸麦中も呼吸を続けているため、空気の吹込みや水の入れ替えを行って酸素を与えます。浸麦では通常、水温約15℃で2日ほど給水させます。次に麦を15℃前後に保たれた発芽室に移して発芽を促進させます。この発芽行程中に、デンプンやタンパク質を分解する酵素が生成します。さらにこの後、発芽した麦の成長を止めて保存性を高めるために麦芽を乾燥させます。この工程を「焙燥」と呼びます。

・ビールの色を調整する色麦芽づくり(焙燥と焙煎)

    1. 焙燥=モルトを熱風で乾燥させる工程のこと。低温(85℃~100℃)だと淡色麦芽、高温(160℃~220℃)だと濃色麦芽になります。急激に熱を加えると麦芽の酵素が損なわれるので、低い温度から徐々に上げていきます。
    2. 焙煎(ロースト)=濃色ビールに使われるカラメル麦芽、チョコレート麦芽、黒麦芽などはロースターで焙煎してつくります。焙煎工程を得た色麦芽をうまく使うことで、褐色や黒色など、さまざまなビールの色合いが造られます。
  1. 仕込み工程=糖類やアミノ酸が豊富に含まれる麦汁づくり
    1. 麦芽の粉砕=麦芽はローラー式の粉砕機で粉砕されます。細かく粉砕することにより、デンプンの糖への分解を効率的に進めることができます。ただし、あまり細かすぎるとこの後のろ過の工程で目詰まりする原因となり、また、麦芽の皮(穀皮)に含まれるタンニンが過剰に溶出し、渋みやエグみの原因となります。穀皮は粗く、穀粒の中身は細かくなるように注意して麦芽粉砕を行います。
    2. 糖化=粉砕した麦芽は温水と混ぜられお粥状の「マイシェ」となります。マイシェの中では麦芽の酵素の働きにより、デンプンは酵母が食べられる大きさの糖に分解され、タンパク質は酵母の栄養源となるアミノ酸に分解されます。この工程を「糖化」と呼びます。酵素にはそれぞれ働きやすい最適な温度があるため、マイシェの温度を段階的に変化させます。この工程は、温度の上げ方によって、大きくインフュージョン法とデコクション法の2つに分けられます。・インフュージョン法=マイシェを煮沸することなく全体の温度を段階的に変化させる方法。


・デコクション法=マイシェの一部を取り出して煮沸し、そのマイシェを元あった全体の中に戻すことによって、マイシェ全体の温度を上げていく方法。

    1. 麦汁のろ過=マイシェの中の固形分(穀皮部分など)がろ過により取り除かれ、麦汁が得られます。この際、固形分自体がフィルターになります。
    2. 煮沸=麦汁にホップを添加することで、特有の苦みや香りを与えます。また、煮沸により麦汁を殺菌し、不快な香りを発揮させます。ホップには苦みをほとんど呈しないアルファ酸という成分が含まれており、煮沸することでイソアルファ酸という苦み成分に変化します。ホップの品質や投入する量、投入のタイミングによっても、ホップに由来する香りや苦みは変化します。
    3. 麦汁冷却=煮沸が終わった麦汁は、ホップに由来する固形物やタンパク質などの凝集物が取り除かれ、酵母が働きやすい温度になるまで冷却されます。


※ホップを加える工程をひとつの工程と考え、全体を7工程とする考え方もあります。

  1. 醗酵工程(主醗酵)=アルコールと炭酸ガスをつくり出す。麦汁の糖を酵母が食べ、アルコールと炭酸ガスをつくり出すのが「醗酵」工程です。麦汁に酵母の増殖に必要な酵素を加え、酵母を添加します。ビールのアルコール度数は麦汁に含まれる糖の濃度によって決まります。糖の濃度が高いほど酵母の分解によって得られるアルコールの度数も高まるからです。一般的にアルコール度数・糖度が高いほど飲みごたえのある味となり、低いとすっきりとした味になります。糖やアルコールの濃度が高い環境では、酵母が生育や醗酵を止めてしまう場合があるので、適した酵母を選び、醗酵の方法を調整することが必要になります。
  1. 熟成(後醗酵/二次発酵)=ビールの風味が特徴づけられる。醗酵を終えたばかりのビールは味が粗く、未熟な香りを含むため「若ビール」と呼ばれます。これを低温で熟成させることで、好ましくないにおいの物質は別の物質に変換され感じられなくなります。一方で、酵母由来のフルーティな香りに代表されるエステル類などの香り成分も生み出されます。また、熟成期間中も残った糖分などの醗酵が進むことにより、炭酸ガスがつくりだされます。この炭酸ガスは、ビール中の不快な香りを揮発させたり、ビール中に溶け込むことで、爽快なのどごしや、特有の泡をつくりだします。

・熟成期間=熟成期間は麦の種類や酵母によってさまざまです。適正な熟成期間を超えると望ましくないにおいがつき、ビールの泡もちにも影響を与えます。

・上面醗酵酵母(エールタイプ)=下面醗酵ビールより熟成期間は短い。熟成を必要としないことが多い。

・下面醗酵酵母(ラガータイプ)=約1ヵ月。より短い期間で熟成させることもできる。


  1. ろ過または熱処理=ビールの品質を保持するためのろ過と熱処理。熟成を終えたビールは、品質の変化を防ぐため、ろ過により酵母を取り除くか、熱処理により酵母の活動が止められます。ろ過には、小さな穴がたくさん空いた珪藻土(けいそうど)や、1ミクロン以下の微小な穴をもつ合成樹脂性のフィルターなどが使われます。・熟成後のビールのろ過と熱処理の仕方にも最近では大きく4つに分かれます。
    1. 酵母を取り除くろ過だけ=これが日本の生ビール。ろ過技術がアップし、この工程が主流になってきました。
    2. ろ過+熱処理=安定して保存できるので、ビールの工程としてはこれまで最もポピュラーなやり方。ろ過後の熱処理は、残っている酵母の働きを止める為。
    3. 何も処理をしない=海外の生ビールに多い。日本のクラフトビールでも、このやり方でつくられるものもある。
    4. プライミングシュガーを入れる=ベルギービールに多い。日本のクラフトビールでも、これでつくられるものがある。飲む直前まで醗酵を続ける。酵母を完全に死滅させず、糖を加えてさらに醗酵させる。新たに酵母を足すこともある。


ちなみに一般的に「生ビール」と呼ばれているものは、「熱処理をしていないビール(非熱処理)」をさします。飲食店で提供される樽詰めのものをイメージしがちですが、熱処理をしていないビールであれば、詰められている容器(樽・缶・瓶)と関係なく、すべて「生ビール」なのです。

  1. パッケージング=ビン、缶、樽による製品化。ビンの場合は、洗浄されたビン内の空気を炭酸ガスによって追い出し、加圧状態にしてからビールを充てんします。缶の場合には、製缶会社から送られてきた缶を洗浄した後、すぐに充てんします。樽の場合には、回収された樽に漏れがないか検査を行い、洗浄の上充てんします。いずれの場合も、ビールと酸素の接触を少なくし、酸化によるビールの品質の劣化を防いでいます。

ビールの醸造家は、正確な知識と長年の経験をもとに、つくりたいビールの色や香味、ボディ、アルコール度数をイメージします。そして、こだわった材料と製法で、とっておきのビールに仕上げます。酵母の働きは温度に大きく左右されるので、仕込みや醗酵での温度管理や、各工程にかける時間にも細心の注意を払います。ビールづくりは、実に緻密で繊細な作業なのです。今日から、また、これらを踏まえてビールを十分に味わってみてください。

参考図書】・ギャビン・D・スミス『ビールの歴史』大間知知子訳、原書房2014年 ・古川英二編集『ビール事典』、㈱学研パブリッシング2014年。 ・Beer&Pub ㈱ゆめディア 2013 Autumn Vol.8

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