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2015.12.01

■ビールの魅惑の秘密①~ホップ編~

ビールといえばホップ?ホップといえばビール? ホップと言う名前はあちこちで聞くものの、ホップとは一体何なのか知る機会は余りありませんね。
ですので、今回は、そのホップについて、その使われ方や効用、起源についてお話しします。

ビールの華、ホップ

ホップは、別名「ビールの華」とも呼ばれています。産地や分量はもちろん、ホップを投入するタイミングで、ビールの香りや苦みが変わってきます。

そうなのです。ビールになくてはならない特有の苦みと爽やかな香りを与えている原料こそがホップなのです。一般にはあまり目にすることのないホップは、ビール醸造のためにのみ栽培されているといっても過言ではありません。


「ホップとグルート」

中世以前にはホップ以外の薬草や香草も使われていましたが、ビールの品質を高めるにはホップが最も適していることが次第に広まり、16世紀にはその地位を確立しています。ビールの腐敗防止や香味付けに古代から薬草や香草が用いられていましたが、中世ヨーロッパでも「グルート」と呼ばれる薬草などを配合したものが使われていました。グルートにはヤチヤナギ、アニス、フェンネル、コリアンダー、セイヨウノコギリソウなどが使われていたとされていますが、独自の配合と製法は長く秘密にされていたため、現在までも文献などには残っていません。でも、フェンネルやコリアンダーは副原材料としていまでも使われています。

「グルート」の製造は領主、修道院、都市国家などが独占し、ビール醸造業者に販売して利益を得ていました。これをかつては「グルート権」と呼んでいました。また、中世都市の一定地域内では、指定されたグルートを使ったビールしか販売できなかったため、グルート権がビール醸造権と並んで都市国家の大きな財源となっていました。

一方、ホップは古代エジプトからハーブとして知られており、ヨーロッパでも8世紀以降には複数の修道院に付属のホップ園がありました。ビールのためにホップが使用されていた記録は、12世紀以降に現れてきますが、主流となったのは15世紀以降と考えられています。14~15世紀のハンブルクではビールの輸出が盛んに行われています。この時ホップの優れた腐敗防止効果が確認され、次第にホップの使用が浸透していきました。グルート権によって利益を得ていた人たちからの、妨害工作もあったようですが、味、耐久性などで優るホップの浸透によって、グルートを用いたビールは次第に衰退していきました。

ホップは雌花しか使わない

ホップは、アサ科カラハナソウ(唐花草)属の蔓性の多年生植物で、ビール醸造では雌花の未授精の処女花を使います。5月の初め頃に萌芽し、収穫時期の8月~9月には蔓の高さは7mほどの高さまで成長します。ホップを使うと、その「樹脂」成分、ホップの苦味成分であるアルファ酸が麦汁煮沸工程で熱変化したイソアルファ酸によって、ビールに特有の苦味が付与されるとともに、「樹油(エッセンシャルオイル)」によって爽やかなホップ独特の香気が醸し出されます。


イソアルファ酸は、麦芽由来のタンパク質とともにビールの泡の形成や泡持ちに大きな役割を果たすほか、殺菌作用もありビール醸造工程でビール酵母以外の雑菌の繁殖を抑制します。また、ホップに含まれるポリフェノールには、大麦タンパク質と結合しビールを清澄化させる効果もあります。ですから、クリアーで透明度の高いビールを醸造するには、ホップはなくてはならない存在なのです。


ビール醸造には、主に未授精の雌花の花を使います。一見松かさのような形をしています。これを「球花(きゅうか)または、毬花(まりばな)」と呼びます。ビール特有の苦味や香りを生み出す成分は、この球花の中の「ルプリン」と呼ばれる粒のような形をした器官の中にあります。


近年の世界のホップ生産量

近年の世界のホップ生産量は約13万t前後(2011年現在)で、主要生産地は、ドイツ(38.1t=38,100t)、アメリカ(29.1t)、エチオピア(28.1t)、中国(10.1t)、チェコ(6.1t)などです。日本国内では主に東北地方や北海道で栽培され、国内1位は岩手県(109t)、2位秋田県(89t)、3位山形県(81t)となっています(2010年現在)。近年では静岡県や鳥取県などの一部でも試験的に栽培されています。


(ちなみに、大麦の生産量は世界全体で約1億2300万t(2010年)となっていて、そのうち約15%が醸造用に使われています。日本では東北や北海道といった冷涼な地域でホップは栽培されていますが、国内で使用されるホップ全体に占める量は、大麦同様、わずかなものにとどまっています。)


ホップの分類

ホップは麦芽に比べると使用する量は少なくない原料ですが、その調達および使用料にはビール醸造技術者のこだわりを垣間見ることができます。技術者は経験的にホップの品種や産地、使用する量や工程での添加するタイミングといったさじ加減で香味を大きく変えられることを知っており、使用にあたってはノウハウが必要とされます。ホップは大きく三つに分けることができます。

  1. ファインアロマホップ=アロマ、ビターホップと比べて香りが優しい。ビールになってからの苦味もおだやかで上品。以下、A品種、B特徴、C主な使用スタイルに分けて説明します。A品種:ザーツ→B特徴:苦味はクリーンで気品があり、とても優雅な香りを持つ。ザーツの名は産地であるシャデツに由来する。→Cスタイル:ピルスナー、ジャーマンラガー、ベルジャンホワイトなど。A品種:テトナング→B特徴:ドイツのテトナング地方でのみ栽培される、高級感のあるおだやかなホップ。繊細なスパイス香やハーブ香を持つ。→Cスタイル:ピルスナー、アメリカン・ペールエールなど。
  2. アロマホップ=ファインアロマホップに比べて、概して強い香りを持つ。A品種:ハラタウ・ミッテルフリュー→B特徴:ドイツの極めて良質で伝統的なホップ。ハーバル(ハーブ的)でスパイシー、かつ落ちつきのある風味。ラガーに向いている。→Cスタイル:ピルスナー、ボックなど。


A品種:カスケード→B特徴:アメリカンホップを代表する品種。華やかな柑橘系のアロマと苦味のバランスがよく、ドライホッピングに最適。→Cスタイル:ペールエール、IPA、ポーターなど。

A品種:ケントゴールディング→B特徴:イギリスの伝統的なフィニッシングホップ。主にケント州で栽培されている。まろやかで上品なアロマを感じさせる。→Cスタイル:ペールエール、ポーター、スタウトなど。


  1. ビターホップ=ファインアロマホップやアロマホップに比べて、苦みが強い。A品種:マグナム→B特徴:とても高いアルファ酸を持つ、高品質なドイツ産のホップとして有名。シトラス系のノーブル(高貴)な香りを備えている。→Cスタイル:ピルスナー、スタウトなど。A品種:ナゲット→B特徴:アメリカ産のビターホップ。しっかりとしたフローラル(花のような)でハーバルな深みのあるアロマが人気。高いアルファ酸も特徴。→Cスタイル:エール、スタウト、バーレイワインなど。
  2. その他=香りと苦味のバランスがよく、アロマホップとビターホップのどちらにも属さないもの。A品種:信州早生→B特徴:ザーツの雌株にホワイトバインという品種の雄株を交配した、日本で一番多く栽培されているホップ。柑橘系の爽やかな香りがある。→Cスタイル:ペールエール、IPAなど。A品種:ギャラクシー→B特徴:オーストラリア原産でアロマ成分を多く含んだホップ。ドライホッピングなどでよく用いられる。アルファ酸が高い。→Cスタイル:ペールエール、アンバーエール、IPAなど。


ただ、ここで注意しておかなければならないことは、ホップは製造工程のなかで数種類を使用するため、必ずしも「スタイル=特定ホップ100%」ではない、という点です。醸造技術者は、狙いとするビールの品質を前提に、ホップの香りや味、あるいはコストのいずれにポイントがあるかによって選び、使い分けています。もちろん、どれかひとつというものではなく、苦味はビターホップで確保しながら、香りづけをアロマホップで行うなど、組み合わせて使うこともあります。


ですから、広告などでよく聞かれる「ファインアロマ100%使用!」がアピールポイントになるのかと言えば、高級ホップである「ファインアロマ」だけを贅沢に使っていますよ、ということを造り手はアピールしているわけです。


ドライホッピングについて

ドライホッピングとは、煮沸の初期でも最終段階のどちらでもなく、ある程度醗酵も終わって、ほぼ完成に近づいたビールに直接ホップを投入する、というテクニックのことです。

ホップは熱を加えると「苦味」が出て香りは飛んでしまいます。逆に熱を加えないと苦味はあまり出ませんが、ビールに華やかな香りをつけることができます。ビール造りでは、この性質を使って苦味と香りを付けます。通常、麦汁を煮沸する工程でホップは投入されますが、熱を加えられる煮沸の初期段階で投入されるホップは苦味つけが目的で、煮沸の最終段階で投入されるホップは、香りづけを目的に投入されます。

これにより、熱が加わらないとてもフレッシュなホップの香りをビールにつけることができます。


ドライホッピングに使用するホップは、ペレット(ホップを粉末にして錠剤型に固めたもの)ではなく、ホールホップ(まんまるのホップ、毬花ともいう)を使用します。


ホールホップをティーバッグのような袋に詰めて、ビールに投入し約1週間そのままにして、ビールにホップの香りが移るのを待ち、ホップを回収してドライホッピング完了となります。(以上、"ベルギービール大好き♪麦酒本舗"を引用、編集)

ホップの効用(健康食品?)

ここまでは、ホップについて、ビールとの関わりの中でお話してきました。
しかし、実は今、ホップはその健康作用が注目を集めています。

未知の可能性を秘めたホップ

ホップはヨーロッパでは古くから民間薬として用いられてきました。女性ホルモン様作用を持つ物質が含まれていることから、更年期の症状を軽減することが知られており、サプリメントとして販売されています。また、生薬としても胃の働きを活発にしたり、鎮静、利尿効果があるとされています。


最近の動物実験やヒトでの臨床試験が複数報告されています。そのいくつかの例をご紹介します。


ホップエキスで更年期障害が改善?

更年期障害に対する効果では、「ホップのエキス」を使ったヒトに対する臨床試験が報告されています。更年期障害の指標のひとつであるホットフラッシュ(更年期障害の代表的な症状で"のぼせ""ほてり"などの症状)スコアが2以上の女性被験者67人(平均52歳)に、ホップ中のエストロゲン様物質である8-プレニルナリンゲン(8-PN)を豊富(100㎍)に含むホップエキスを投与した結果、6週間後に対照群と比較して改善効果が認められたというベルギーの研究者の報告があります。


ホップエキスの数々の健康作用

また、マウスを使った実験では、ホップエキスの鎮静効果や睡眠時間延長効果が、ドイツの研究者によって示されています。さらに、ホップの消化改善効果については、ラットを使った試験があります。この試験は、胃の幽門(胃の出口)を縛ったラットを使用し、ホップ投与が胃液の量にどう影響を与えるかを測定したものです。ホップを経口投与した結果、胃液の分泌が2倍以上に増加する結果が出ています。こうした女性ホルモン様作用、鎮静・睡眠誘導効果、消化改善効果などは従来から民間療法的には知られていましたが、近年やっとこのような科学のメスが入ったのです。


でも、ホップにこのような効果があったとしても、ホップが入っているビールを飲めば同じような効果を得られるかどうかは別問題です。ここでご紹介した試験や実験は、ホップの特定成分を分離・濃縮して試験を行い、その効果を確認したものであり、ビールを多く飲めば同様の効果があるという量ではありません。


ただ、ビールの数々の効果の中で、不眠を解消して安眠を誘う効果、リラックス(鎮静)効果、利尿効果、女性をさらに女性らしくする効果(女性ホルモン様効果)などは伝承的にも昔から知られています。これにはアルコールの影響も大きいでしょうが、ホップ由来の効果もあると考えられます。日本におけるホップは、まだビールの原料という域を出ず、他のハーブ類と比べても印象は薄いかもしれません。ホップの本格的な研究は始まったばかりです。今後も未知の成分や機能が解明されていくことでしょう。ビールの健康機能性の証明とともに、ホップも機能性を持った食品素材として広まる日も来ると思われます。


参考図書:「ビールの図鑑」(㈱マイナビ、2014)、「日本のクラフトビール図鑑」(㈱マイナビ、2014)、「ビール事典」(㈱学研パブリッシング、2014)、「日本ビール検定・公式テキスト」(実業之日本社、2015)、「ビールの科学」(㈱講談社、2009)

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