BREWING JAPAN

COLUMN

コラム

Medium touka

2016.04.04

醸造家が教えるビール講座~糖化~

こんにちは!

キミズが教えるビール講座、前回はモルトについて簡単に説明させていただきました。

そのなかで何度か「糖化」という言葉が出てきたと思います。

糖化は個人的にはビール製造工程において最重要かつ、一番面白い工程だと思っています。

今回は、モルトを説明するうえで外すことのできない製造工程「糖化」について、解説していきます。

糖化の原理

そもそも糖化とは?

糖化は読んで字のごとく、でんぷんを糖に変える工程のことです。具体的には糖の集合体であるモルトのでんぷんをアミラーゼという酵素の働きによってマルトース(麦芽糖)やデキストリン、ブドウ糖に分解することです。アミラーゼは2種類あり(αアミラーゼ、βアミラーゼ)それぞれ最大活性温度や失活温度が異なります。また、でんぷんの分解の仕方も異なっています。

αアミラーゼとβアミラーゼ

αアミラーゼはでんぷんをランダムに切断していくので、様々な大きさのでんぷん分解質が生まれます。細かく切れたものはブドウ糖やマルトースで、大きく残ったものはデキストリンという物質となります。

一方、βアミラーゼはでんぷんを端から細かく切断していくので大量のマルトースを生み出します。また、αアミラーゼの働きでできたデキストリンもマルトースにまで分解していきます。

αアミラーゼは65-80℃位で活性があり、それ以上の温度になるとたんぱく構造が壊れ失活してしまいます。βアミラーゼは50-70℃位で活性があり、それ以上になると失活します。

これらの分解様式の違いと活性温度の違いは糖化を考えるうえで非常に大事になってきます。

タンパク質の分解

糖化はでんぷんの分解工程のことですが、糖化の効率化とクリーンな味わいを生み出すため、タンパク質の分解も行う場合があります。

特にドイツのモルトなどはタンパク質を多く含むので、タンパク質を分解しなければアミラーゼがうまく働かなくなってしまいます。

タンパク質の分解はプロテアーゼという酵素の働きによって行います。プロテアーゼは活性温度が40-55℃位なので、アミラーゼよりも低い温度である必要があります。

したがってまず、50℃位の温度でタンパク質を分解した後、70℃付近まで温度を上げて糖化を行います。

このときの温度の上げ方が現在では2種類(デコクション、ステップインフュージョン)あります。

様々な糖化方法

デコクション法

デコクションはたんぱく分解を行ったあと、麦汁の一部を沸騰させ、元の麦汁に戻すことで全体の温度を上げる糖化方法です。ドイツで開発されたやり方で、日本でもドイツスタイルのビールを多く作っている蔵ではこちらのやり方を採用しているところが多いです。

デコクションでは糖化槽に加温する機能が不要であるため設備のコストが抑えられますが、麦汁を窯に移して再度戻す必要があるので手間のかかるやり方です。

ステップインフュージョン法

ステップインフュージョン法では加温機能を持つ糖化槽で、既定の温度まで加熱して糖化を行う方法です。イギリスで開発されたやり方で、液体の移動がなく温度管理だけで糖化ができるのでアメリカなどでも広く採用されている方法です。


ちなみに木水はそのどちらでもなく、たんぱく分解を行わないシングルインフュージョンという糖化方法をいつも使っています。これはいたってシンプルに最初から糖化温度(70℃位)で糖化を行うというやり方です。

たんぱく分解を行わない理由としては、アメリカ産やイギリス産のモルトはあえてたんぱく分解しなくても十分に糖化できる、中間温度(温度を上げている最中の温度)がないので糖化効率などの計算・分析が容易、すっきりしたラガーを作らないのでたんぱくが味に悪影響を及ぼすことが少ない、などです。

もちろん、作るビールのスタイルによってはこれらの糖化方法も使っていきたいとは考えていますが、それぞれに理由があっていくつかの方法が共存しているのです。

糖化によって変わる味

1℃違えば別のビール

最初に糖化が一番面白いと書きましたが、それは本当に細かい温度の違いでガラッと味わいが変わる工程だからです。私の醸造の師匠であるサンクトガーレンの岩本社長からはよく「糖化が1℃違えば別のビールになってしまうから気をつけろ」およく言われていました。なぜちょっとした温度の違いで大きく味わいが変わるのかというと、前述の2種のアミラーゼの活性温度の違いによる糖化によってできてくる糖分が変わるからなのです。

でんぷんが糖化されると主にマルトースとデキストリンが生まれます。マルトースは発酵工程において酵母によってアルコールと二酸化炭素に分解されますが、デキストリンは分解されずそのままビールに残ります。これがビールにボディとコクを与えてくれますが、多すぎると逆に爽快感が失われ、べったりとした印象のビールになります。

2つのアミラーゼの働きは糖化温度によって下記のように変化します。

まず、60℃で糖化させるとαもβもバリバリ働いて糖化が進み、ほとんどのでんぷんがマルトースなど発酵性糖分に分解されます。すると発酵後に残る糖分が少ないので、すっきりとした印象のライトボディのビールが生まれます。

65℃ではβアミラーゼの活動が弱くなり、αアミラーゼは最大の活性を示します。すると糖の分解は進むもののデキストリンも一定量できるので、出来上がったビールはややコクのあるミディアムボディになります。

70℃ではβアミラーゼは失活し働かないので、αアミラーゼのみで糖化が行われます。βアミラーゼがないとデキストリンの効率的な分解ができないので多くのデキストリンがビールに残り、コクのあるフルボディのビールができます。

さらにpHも酵素活性に影響するので、液体pHによってもこれらの働きが変化していきます。

このようにちょっとした温度の違いでも糖化酵素の働きは劇的に変化しています。この働きの違いがビールの味わいの違いとなって表れているので、糖化は片時も目を離せない大事な工程なのです。


いかがでしたでしょうか?

糖化、奥が深いでしょ?コクを生み出すのはデキストリンだけではなくカラメルモルトやタンパク質などもありますが、原料を変えずに味わいを大きく変化させる糖化工程の面白さを感じていただけたなら幸いです。

色のわりにすっきりしてるな、と感じるビールがあれば、もしかしたら糖化でスッキリ感を生み出しているかもしれません。

次回はモルトの種類についていろいろお話したいと思います。

お楽しみにー。

Img 0464

木水 朋也

1988/2/12生まれ

2014年に神奈川の老舗クラフトビールメーカー「サンクトガーレン有限会社」に入社。同年より醸造担当として同社のビール製造を行う。

在籍中にWBA等国際的なコンペティションでの受賞歴あり。

2016年2月、ライナ株式会社に入社。ShinjukuBeerBrewingの醸造長として、新たなビールづくりを開始。

2017年11月には、浅草橋に新工場「CraftBeerCompany」が稼働開始し、2つの醸造所で多様なビール造りを行っている。

関連記事

Default

2016.06.30

醸造家が教えるビール講座~ラガー~

お久しぶりです。木水です。今回はラガーの代表的なスタイルについて解説していきます。ピルスナー世界で最も飲まれているスタンダードなビアスタイルです。スーパードライも一番搾りもバドワイザーもハイネケンも、全部ピルスナーです。もともとはチェコのピルセン地方発 ...

続きを読む

Medium 25316

2016.06.07

こだわりの横浜ビール

横浜ビール工場見学! 横浜にあるクラフトブルワリー!横浜ビール醸造所へ見学に行きました!横浜ビール醸造所とは… 横浜の地で醸造を始めて17年!第一次地ビールブームから先駆け的に作られたブリュワリーです◎横浜ビールでは年間生産量60㎘を生産。2klタンク ...

続きを読む

Medium molt

2016.04.15

醸造家が教えるビール講座~モルトの種類~

木水が教えるビール講座、5回目の今回はモルトについてもう少し掘り下げていきたいと思います。モルトの概要的な部分は前々回のコラムを見てもらうとして、今回は様々なモルトについて説明していきたいと思います。モルトの産地ドイツビール大国ドイツ。大昔からビールを ...

続きを読む

Medium touka

2016.04.04

醸造家が教えるビール講座~糖化~

こんにちは!キミズが教えるビール講座、前回はモルトについて簡単に説明させていただきました。そのなかで何度か「糖化」という言葉が出てきたと思います。糖化は個人的にはビール製造工程において最重要かつ、一番面白い工程だと思っています。今回は、モルトを説明する ...

続きを読む

Medium 18774

2016.03.24

スノーモンキービアライブ!!行ってまいりました!!

クラフトビールと音楽の祭典!3月20日超弾丸で行ってまいりました!イベント滞在時間は3時間!(笑)楽しい楽しいとは聞いていましたが…楽しすぎました(笑)今回で5回目となる同イベント!どんな内容かと言いますと… 『国内トップレベルのクラフトブルワリーと、 ...

続きを読む

Medium shutterstock 104782661

2015.10.25

「地ビール」と「クラフトビール」の違いと定義(クラフトビールとは)

「クラフトビール(craft beer)って何?」って誰かに急に訊(き)かれてもなんだかよく分からいですよね。「地ビール」とどこが違うの?って新たな疑問が湧いてきます。 日本では、地ビールもクラフトビールもどちらも「小規模醸造」という意味では ...

続きを読む